仏教入門
#01
所要時間4分
一切衆生のために「願以此功徳」とは?
経典の一節に出てくる願以此功徳の意味から信仰について考えてみましょう。
講義で学べるポイント!
- 願以此功徳の意味は?
- 願以此功徳からみる信仰とは?
一切衆生のために「願以此功徳」
法事や供養の際に、拝読をする経典や仏教著述は数多くあります。
そして、それらは地域や宗派によっても、様々であります。そのなかでも、多く拝読をされているものに、「普回向(ふえこう)」や「回向文(えこうもん)」と呼ばれる有名なお経の一節があります。
ここでは、真読(漢字の音にて読むこと)・訓読(読み下しにして読むこと)のそれぞれを表記しておきます。
また、「願以此功徳」から始まる重要な文言は、『妙法蓮華経』と『観無量寿経疏』に確認できますので、それぞれを紹介します。
『妙法蓮華経』化城喩品
願以此功徳(がんにしくどく)
普及於一切(ふぎゅうおいっさい)
我等与衆生(がとうよしゅじょう)
皆共成仏道(かいぐじょうぶつどう)
願わくは此の功徳を以て
普く一切に及ぼし
我等と衆生と
皆、共に仏道を成ぜんことを
これは、『妙法蓮華経』(法華経)の7番目の章「化城喩品(けじょうゆほん)」に説かれています。
自らの修行の功徳を、すべての衆生のために施して、一緒に仏道修行をまっとうし皆が悟りを得られることを願う内容であります。
『観無量寿経疏』玄義分
また、同様の文章として、中国浄土教の善導(613-681)著『観無量寿経疏』玄義分にある次のような文言も見られます。
願以此功徳(がんにしくどく)
平等施一切(びょうどうせいっさい)
同発菩提心(どうほつぼだいしん)
往生安楽国(おうじょうあんらっこく)
願わくはこの功徳を以て
平等に一切に施し
同じく菩提心を発して
安楽国に往生せん
一切衆生のために「願以此功徳」まとめ
回向文や普回向と呼ばれる、法事や供養にて拝読されている経文を紹介しました。
はじめの法華経の文では、みずからの修行の功徳が、あますことなく一切衆生にひろく及ぼされ、私たちも一切衆生も、皆が一緒に仏道を成じて、悟りを得られることを願うとの内容です。
他方、『観無量寿経疏』では、みずからの修行の功徳が、平等に一切衆生へと施され、同じく悟りに向かう心をおこして、安楽国(極楽浄土)に往生することを願う内容であります。
いずれにしても、仏道修行によって得られた功徳は、自分ひとりのものでは無く、他者へも施し、自分だけでなく一切衆生(すべての人々)が共に悟りを得ることや極楽浄土に往生することを願っているのです。
よく、「自分は1人で生きていけるんだ・・・・」とか、「自分と他人は別物であり、社会とは無関係」などという人がいますが、本当にそうでしょうか?「社会」とは、1人1人の集合体であって、社会的共同体でもあります。
私たちは皆、大なり小なり関わり合って生きているのです。だからこそ、自分だけでなく他者のためにも、願いを起こすのです。
お経は、声に出して読み、意味を理解してこそ、尊いものであると感じられるのでしょう。是非とも、縁あるご自身の先祖さまのために、ひいては一切衆生のためにも、拝読していただきたく思います。
なお、真読のふりがなや訓読の読み下しは、あくまでも一般的なものを表記いたしました。宗派や地域によって、読み方やルビが異なることもありますが、その点は御理解くださいますようお願い致します。(康)